世界へとびだせ.COM インタビュー
アメリカでがんばる編
Oakland Athletics Baseball Company Sales
& Marketing 市原克人さん
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子供の頃からスポーツに親しみ、日本の大学時代にはフットボールで学生チャンピオンとなる。その後MBA取得のため渡米。野球観戦をきっかけにスポーツマネージメントを専攻する。現在は大リーグオークランドA'sの営業マンとして活躍。
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今回のゲストは、アメリカ・プロ野球、メジャーリーグはオークランド・アスレチックス(通称A's)の営業マン、市原克人さんです。市原さん、はじめまして!
わぁ、ガタイが良いですねぇ〜。さすがはアメリカ大リーグのスタッフという印象です。子供の頃はやっぱり野球少年だったのかしら?
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※インタヴュアー⇒わたなべ美紀 世界へとびだせ.COM サンフランシスコ事務局代表
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Katsuto: それが、野球はあまり興味がなかったんです。小中学校では地元のサッカーチームに入ってました。中学時代の友人がシルバースターズ(アサヒビールのフットボールチーム)のジュニアチームにいて、応援するうちに僕もアメフトがやりたくなった。で、高校はフットボールが強い学校を選んで入りました(笑) 大学時代(立命館大学)もフットボール漬けでしたね。僕の代は結構強かったんですよ。98年には学生チャンピオンになってライスボウルに出場しました。社会人チームのリクルート社に負けてしまったんですが…あの時は悔しかったなぁ。
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体育会系!負けず嫌いなんですね(笑) |
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(笑) ではまず、私も含めて読者に野球オンチがいるかも知れないから、オークランド・アスレチックスの紹介からお願いします。
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了解です。メジャー・リーグは、アメリカン・リーグとナショナル・リーグから成り立っていて、各リーグがさらに東西のブロックに分かれています。僕のいるオークランド・アスレチックス=通称"A's"は、アメリカン・リーグでも2番目に古い球団なんです。72〜74年の3年連続を含め過去4回、ワールドチャンピオンになっています。
これは、ヤンキースに次ぐ記録なんですよ。最近はそれほど強豪のイメージがないので、意外がられますが(笑) |
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輝かしい歴史を持った球団なんですね。で、大リーグの営業マンって、どんな仕事をするの?
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シーズン・グループチケットや、ラグジュアリー・スウィート…団体で貸し切るいわゆるVIPルームですね、他にバーベキューテラスなどの販売営業が主な仕事です。お客さまは個人よりも企業が殆どです。
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観客席の、ちょうどファウル・ポールが立ってるあたりに、50〜70人くらいまでのバーベキュー・パーティを開けるエリアが設けてあるんです。肉をモリモリ食って、ビールをがんがん飲んで、盛り上がったところで、さぁ、試合見ようぜ!というノリですね。
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アメリカ人はバーベキュー大好きだものね。ハンバーグかソーセージをBBQコンロで焼いて、A1ソース(米国の大衆レストランのテーブルにたいてい置いてあるステーキ用ソース)をかけるか、パンにはさんでケチャップとマスタードとピクルスでいただくのがお約束ね(笑)
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僕、バーガーは結構好きですけどね(笑) チケットの他にも、フェンスとかスコアボードとかに企業の広告が載っているでしょう?あの広告の営業も僕らの仕事です。
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プロ野球の球団って、会社としてはどんな組織で動いているんですか? |
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トップのCEOとかプレジデントの下に、選手やスカウトの管理をするベースポール部門、僕のいる営業部門、テレビの放映やプレスの管理をするメディア部門や、経理部門なんかに分かれています。 |
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そのアメリカ大リーグの球団にいったいどうやったら入社できるんだろう??って、読者のみんなが興味深々だと思います。A'sの営業マンへの階段は、いつどうやって昇り始めたの?
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僕は大学時代からベンチャーとかビジネスに興味があって、ナイキやHPとかのビジネスモデルを勉強して、凄いなぁと思ってました。やっぱりビジネスを学ぶにはアメリカだ!と決心して、卒業と同時にMBA(ビジネス修士号)を取る目的でアメリカに来ました。
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大学卒業後に就職じゃなく留学を選んだ時、ご両親は反対されなかった? |
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最初は反対されました。特に母親は、「どこでもいいから地道に就職して!」ってね(笑) でも父親が最後には、「リスクを背負っても自分のやりたいことをやってみろ」と言ってくれた。感謝しています。自分にもいつか子供ができたら、絶対本人がやりたいようにさせてやりたいと、そう思っています。
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大学院の準備過程でESL(外国人向けの英語クラス)に通っていた頃、サンフランシスコ・ジャイアンツの試合を見に行きました。正直言うとそれほど野球が好きなわけじゃなかったんですが…。
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話のタネに新庄(選手)を見に? |
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アタリです。3COMパーク(SFジャイアンツのホーム)の球場内に入った途端、その場の独特の空気っていうか…日本とはぜんぜん違うんですよね。完全に呑まれました。球場という空間の中で、そこに集まってきてる人たちの間に不思議な一体感みたいなものが生まれている。たとえば普段はすごい無口でひとづき合いの悪そうな人でも、球場の中ではぜんぜんオープンになれて、日常とは別の自分を楽しんでいる…それももちろん自分自身の本質なんですけどね。他のシチュエーションでは決して味わえない、スポーツイベント独特のコミュニケーションがその場に集まった観客の中に生まれる。そのムーブメントを引き起こすのがスポーツビジネスなんだ。これはすごいぞ!って、もの凄く興奮しました。
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うん、解る気がするナ。アメリカって、スポーツをとことんエンターテインメントに仕立てあげちゃう国なのね |
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それをきっかけに、University of San Franciscoでスポーツ・マネージメントを専攻しようと思いはじめたんです。また、当時SFジャイアンツの広報だった林さんから…現在は日本サッカー協会で活躍をされている方ですが、スポーツ・ビジネスについての話をいろいろ聞く機会に恵まれました。林さんの影響も大きかったですね。 |
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人との出会いは、人生を切り開く上ですごく大切なカギになったりするものですね。 |
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ええ。「アメリカは実力主義の国」とよくいわれるけど、やはり「コネの働きも大きい」と実感しました。大学院の授業では、スポーツ界やその他から著名なゲスト・スピーカの講義がたくさんあります。なにしろ僕が在学していた2年間だけで、70人ものゲストの講演があったんですよ。講演が終ったあとで、ゲストに積極的に話しかけて、名刺もらったり話を聞かせてもらったり…学生の時からみんな、そうやってコネづくりに励むんですね。
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自分からコネ=人脈を創っていく能力も、仕事をしていく上での重要な「実力」のひとつに数えていいんじゃないかしら。アメリカでは、いろいろな趣旨のパーティに積極的に出かけていって人脈を広げたり、初めて会った人ともスムースに会話を交わせる…そういう社交術が苦手だと、「リッパな社会人」とはみなされない面もありますね。「日本人はパーティが苦手」が通説なのに、市原さんは「日本人離れ」してるのかな(笑)。
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フットボールやってましたからね。こっちからガーン!と体当たりしていかないと、潰されますって(笑) いろいろなところでインターン(企業研修)をやらせてもらいました。NPOの草野球チームの運営だとか、ルーゲーリック病の救済団体だとか。アルカトラズ島(サンフランシスコ湾に浮かぶ旧牢獄島。アル・カポネが収監されていたことで有名)から泳いで脱出するトライアスロンのボランティアなんてのもやったなぁ…。ある時、同じ学科にA'sのインターンをやってた友達がいて、「日本から藪選手がA'sに入団してくるらしい」という裏ネタを聞きつけたんです。
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チャンス到来。ソッコーでレジメ(履歴書)を出した? |
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はい。で、ソッコーで雇ってもらえました!なにしろ採用された翌日が「藪選手の記者会見」だったんで、入社早々信じられないくらいこき使われました(笑) 入ってみて驚いたのは、アメリカの会社には「新人教育」ってもんがないんですかね?いきなり、「日系の会社の営業しろ」って言われて、誰もなんにもやり方を教えてくれないんですよね。
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日本には「新入社員研修」なんてありがたい制度もあって、メールの書き方から電話のやり取りまで懇切丁寧に指導してくれたりするのにね。アメリカでは、「キミは仕事ができるからこの会社に来たんだろ?何を教わる気?」って言われちゃう。で、どうやって切り抜けたの?
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盗むしかないですよ。先輩のHOW TOを。隣のデスクで営業マンがお客に電話掛けてところを、じーっと聞き耳を立てるんです。会話の最初の挨拶の言い回しだとか、セールスに持っていくキーワードとかタイミングとか、最初は彼らのやりかたをコピーして、だんだんと自分なりのスタイルを作っていった感じです。
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僕の場合、「お客さんに直に会いに行く」ことを大切にしています。一日中お客さんを訪問して回るのは、体力的にはキツいですけどね。一方、アメリカ人営業マンは、殆どの営業を電話だけで片付けています。担当顧客がたいてい常連さん、という理由もあるんでしょうが。
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"FACE TO FACE"でなければ生まれない信頼感や親近感て、確かにありますね。
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この仕事をやって良かったなと一番思えるのは、いろんな人に会って話せることなんです。アメリカでは、僕みたいな若造にでも、結構でっかい会社の社長さんが直接話を聞いてくれたりすることがあるじゃないですか。凄いことだと思います。日本じゃ考えられない。英語には「敬語」がない点も、上下の壁を取り払ってくれていると思う。また、日本にいたら絶対に顔を合わせるチャンスなんかないだろうな…て有名人がひょっこり隣に座ってて、アレ?なんて驚くことも…。英語のクラスで、オリンピックの金メダリスト、柔道の野村選手と一緒だったんです。
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ぜ〜んぜん(笑) あんまりフツーなので、最初は気がつかなかったくらいです。
野村さんはまったく気取りや気負いを感じさせない、気さくで誠実な人で、いろいろと勉強になる話が聞けました。 |
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たくさんの人との出会いが、市原さんのキャリアの扉を開いていったんですね。アメリカで仕事をしてみて、どんなことを感じていますか?
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仕事の進め方がOPENですね。意見を主張すれば年齢や経験に関係なくちゃんと聞いてもらえるし、たとえ新人でも提案をアピールして上司の納得を得られれば、やりたいプランを実行させてくれます。「イチから教えてくれない」代わりに、「若手を育てる土壌」があるのがアメリカだと思います。 |
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アメリカ人は、RESPECTという言葉を大切にしますね。個人の考え方や生き方を尊重し、信頼する。このRESPECTが人間関係や社会理念の基本になってるのね。
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お客さんのこともRESPECTしていると思います。お客さんからのフィードバックを大切にとらえ、そこから次のビジネスプランを組み立てて行くとか。
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営業職の場合、技術職よりも米人との言葉のハンデがモロに出ませんか?
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それはそうです。こっちで生まれ育ったアメリカ人と比べられたら、我々日本人は喋りの技術的な面でどう頑張ったって勝ち目はないです。でも、自分の意思を伝える力は、ボキャプラリーや発音だけじゃないと思ってます。相手に解って貰いたい!という熱意があれば、言葉なんか多少難があっても十分に伝わります。自分でそう思いこまなきゃ、営業なんてやってられないし(笑)
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市原さんがアメリカに来て、「自分のやりたいこと」を見つけられたこと、一歩ずつ実現に繋げていること。素晴らしいと思います。
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日本とアメリカでは、就職のプロセスが根本的に違いますね。日本では卒業に向けてみんなそろって就職活動をして、みんなそろって卒業して、みんなそろって就職しなきゃならない…。このやり方で誰もカレもが自分のやりたい事を見つけられるのかは疑問です。
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アメリカでは、インターンシップ制度が就職に活用されていますね。 |
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ええ。自分でインターンを体験してみて、この制度はすごくいいと思いました。実際に職場に入って仕事をしてみて、その仕事がどんなものか、職場の現実も自分で体験して理解する。そうやって自分がやりたい仕事を決めていく…合理的なやり方だと思うんです。僕だって、あのまま日本でナアナアで就職していたら、周りと同じタイミングで同じルートに乗っかって、ナアナアのまま進んで行くしかなかった気がします。
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この先もずっと、アメリカで暮らしていきたいですか? |
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僕の場合、なにがなんでもアメリカで暮らしたいとか、日本で暮らしたいとかの、固定した考えはありません。生活する場も、仕事場も、どっちにあってもいいと思っています。ただ、僕には、「将来ビジネス経営に関わって行きたい」という目標があって、そのキャリアアップの為には、アメリカで学んだり仕事をする体験が絶対に必要だと思っていたので。その意味でも、アメリカにきて本当によかったと思っています。
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市原さんは、「着実に欲しいものを手に入れていくタイプ」という印象ですが、凹んだりすることは?
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ありますって。僕はこう見えて、内心は失敗したらどうしようか…とか結構心配性だったり、神経質なところもあるんで…。落ち込んだ時は、友達と飲みに行くかな。やっぱ、男同士ですね、そういう時は。カノジョにあんまり凹んだとことか、見せたくないしなぁ(笑)
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ご馳走サマです(笑) じゃあ、このへんで市原さんに、日米のスポーツ業界を「バッサリ斬って」もらおうかな。
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アメリカ人に言わせると、「フットボールはパッション」で、「野球は国民的娯楽」なんだそうです(笑) こっちでは親子連れで観戦に来るファミリーの姿が一般的ですね。各球団が子供たちを対象としたマーケティングに力を注いでいる結果だと思います。また、企業がスポーツイベントをマーケティングの重要な機会として投資する金額も、アメリカは日本とはケタ違いに高額です。スーパーボウルのTV放映権にFOX局は600億円を支払っている、と言われます。
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スーパーボウルのTV放映では毎年、「スーパーボウル専用に創ったCM」が流れるでしょ。ユーモアが効いてて面白いから、毎回楽しみ。
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あのCM料、1本で1億2億の世界ですよ。アメリカは今、スポーツバブルとも言われています。
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かたや日本のプロ野球では、スター選手が軒並みアメリカのメジャーリーグに移籍。日本の球界は大丈夫なのかしら?
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僕は、仕事でも何でも、やる以上は上を目指したいんです。プロ野球の選手だって、日本国内でいちおう頂点まで上り詰めたら、もっと上を目指したくなるでしょう。大リーグ入りで年俸が下がる選手もいるけど、カネの問題じゃないんだ。その気持ちは解ります。日本のプロ野球の古い体質も、選手だけじゃなくて観客の目を海外へ逸らしてきたと思います。最近、ライブドアはじめIT関連の若い経営者たちが球団経営に参入しているのは、日本のスポーツ・ビジネスの現状を打破する上で歓迎できます。
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では最後に、これから海外に出て行こう!とする後輩たちに、市原さんからのアドバイスをお願いします。
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「恐れずに、前に出てコンタクト!」これかな?(笑) 前に進めば何かしらの道は開けます。どうしようかとあれこれ思い悩んでいるうちに、肝心なタイミングを逃してしまう。
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そうね。幸運の女神には「前髪」しかないんだから(笑) |
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ぜひ、「積極的な人間になるぞ!」と決意を固めてアメリカへ来てください。受け身でいては、この国ではあまり成果が得られないと思います。
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同感です。今日はA'sの熱血営業マン、市原さんに勇気をいただきました。世界へとびだせ.COMのみなさんは恐れずにガンガン行きましょう!
(完) |
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※本インタビューは、2005年に取材されたものです。
ご本人の了解を得て、Global Persons http://www.globalpersons.net の
掲載インタ ビューと重複掲載させていただいています。
インタビュアー:若井美紀
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